
今回は、主に金融機関や信用調査会社が、企業の経営分析を行う際に使用する、「収益性・効率性・安全性・生産性」等の指標からは経営改善が思うように進まない理由について、筆者の考えを書きます。
一般的な経営診断指標とは!?
金融機関や信用調査会社等が実施している経営診断サービスを目にするケースは多々あると思います。
主な、経営指標として「売上高対利益率などの「収益性」、総資産回転率などの「効率性」、自己資本比率などの「安全性」、労働分配率などの「生産性」がそれで、信用調査会社や金融機関が提供するものです。
具体的にはこちら、「経営自己診断サービス」。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が提供しているサービスです。入力フィールドに決算書の数値を入力するだけで診断ができる簡易性・操作性があり、業界との比較もできる便利性も兼ね備えている優れものです。
また、経済産業省が提供する「ローカルベンチマーク」こちらも経営診断を簡易に行えるのが特徴です。
経営診断が簡易に行えるのは非常に有益なことなんですけど、何かが引っかかる。収益性や成長性、安全性、効率性、生産性の切り口で業界平均と比較しているチャートはわかりやすいけど、だから何なの? という気持ちはぬぐえません。
他の金融機関や信用調査会社が出しているものも調査項目や調査の深さに違いはあれども概ね分析していることは同じです。
一般的経営指標をベンチマークできない3つの理由!!
さて、筆者が思う違和感は以下の3点となります。以下それぞれについて言及していきます。
- 実際の経営改善活動や企業成長の活動には使いにくいこと
- 相対比較対象が安定成長期にある日本国の業界企業平均と比較していること
- 最後に、収益性の評価・分析が損益計算書を中心としていること
指標が経営改善活動に使いにくい!
一つ目のポイントですが、実際の経営改善活動や企業成長のために使いにくい理由は、その業界平均と比較された指標をみて、どう改善したらよいかわからない点にあります。
例えば、「売上原価率が他社より高いから改善しましょう」と言われて、すぐに原価改善活動が実行できるのか? ということです。
仮に行動したとしても、取引先に対し仕入れコストを削減してくださいとお願いしてすぐに下がるものでしょうか?
また、回転率重視の経営で、単価を低めに設定し、数量を大きくとるEDLP(Every Day Low Price)戦略を取っていたら、そもそも業界平均と比べて原価率が高いのは当たり前です。
経年(時系列)比較は別として、他社(同業)比較比較において有用性があまり見いだせない点が問題点と言えます。
相対比較対象は日本国内でよいのか!?
二番目の問題点は、相対比較対象です。
財務諸表診断においては、経年比較と他者比較の指標が用いられます。
後者の他者比較ですが、比較対象が国内の企業となっているのがあまり良くないと筆者は考えます。
失われた30年と言われるぐらい低成長が続いている日本の国内企業と比べて良し悪しを論じてもあまり意味がない。
もちろん、その中でも好業績の企業はあるかもしれませんが、どうせ比較するならば国際的な企業間で比較したり、ベンチマークした特定企業と比較した方が有意義であると考えるのは筆者だけでしょうか?
「業界内のゼロサムゲームで、付加価値を創造するより、ディスカウントの方向に向かいやすくなってしまうのではないか?」
「相対比較するならば国際間の同業者と比べないとどんどん目線が下がっていってしまうのではないか?」
などと危惧するのは筆者だけでしょうか?
収益性の分析が損益計算書中心となっていてよいのだろうか!?
最後は、収益性の評価・分析が損益計算書中心となっている点についてです。
事業を実行する会社の活動は、資本を調達することに始まり、資産・経営資源を取得し、その資産・経営資源を活用し、事業を推進する、という4つの活動の循環となっています。
そこで、損益計算書は、4番目の「事業の推進」の記録の結果にしか過ぎません。
一方で、資本の調達・資産の取得は、貸借対照表に記録され、「資産の活用結果」は貸借対照表と損益計算書を紐解いて加工しないと出てきません。
しかし、この「資産の活用(資産収益性)」が損益計算書に多大な影響を及ぼしています。
残念ながら現状の経営指標では、資産と負債・純資産は、「安全性」や「効率性」で評価されています。
この収益性の評価・分析が、損益計算書中心となっていていて、資産や負債・純資産が収益性として指標化されていないことが、現状の経営診断の課題と筆者は考えます。
また損益計算書の収益性から事業を改善しようとしても限界があるというのが、筆者の思うところです。
理由は、損益計算書の費用の内訳には、貸借対照表の資産が費用化されて計上されている科目が、結構大きな割合を占めているからです。
例えば、商品・製品・仕掛品・貯蔵品等の棚卸資産や設備・建物等の資産は、売上原価や販売費及び一般管理費に計上されます。
これらの改善は、資産の取得時に遡らなければ実現できません。
そのためにも資産や負債・純資産は、効率性や安全性ではなく収益性として評価されねばならないと筆者は考えます。
経営改善のための分析とは!?
以上、経営改善に際して、収益性・効率性・安全性等の一般的な経営指標の有用性が低いと思う3つのポイントを説明させていただきましたが、それではどのような指標が有用性が高いといえるのでしょうか?
少なくとも、3点に違和感があるのであれば、その逆の手段には、経営改善において有用性があるということとなります。
具体的には、以下の3点となります。
- 経年(時系列)比較のみを活用する。
- ベンチマークする対象を明確にし相対比較する
- 資産は効率性ではなく収益性で評価・分析する
経年比較では、前期や予算と比してその差異を単価と数量で分析すること、相対比較は、国内外を問わず、自社がベンチマークする会社と比較すること、資産は、資産収益性で評価・分析することとなります。
これらの分析は、自社の経営改善においてその差異を通じて改善活動指針を明示することとなります。
本記事のまとめ
以上、本ブログでは、収益性・安全性・効率性等の業界比較資料では経営改善が進まない理由について書きました。
本記事のポイントは以下となります。
- 一般的な収益性・効率性・安全性・生産性等の指標は、中小機構や政府から無償提供されている
- 同業他社比較では、何をどう改善したらよいか漠然となるため、経年(時系列)の再比較を単価・数量で行う
- 他者比較の指標良し悪しを論じても無意味なので、明確なベンチマーク企業と比較する
- 資産は効率性ではなく、収益性で評価・分析する
弊社では、経営改善に有用な経営分析サービスを実施しております。
その名称は、「企業価値最大化に向けての経営分析」です。
企業価値評価と管理会計の視点を組合せた経営分析サービスで、貸借対照表・損益計算書の双方から何を改善することによって、企業の収益がどのように変わるのかという「行動」と「効果」を明示するとともに、その改善により企業価値がどのように変化するかも示す、弊社独自のサービスとなります。
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