残余利益による経営管理と企業価値評価が中小企業に向いているわけ!

今回は、筆者が、残余利益による経営管理や企業価値評価が、中小・ベンチャー企業に向いていると思う理由について書きます。

経営資源が限られている中小企業は効率性が重要!

まず、はじめに中小・ベンチャー企業はリソースが限られている、あらゆる面で経営者に大きく依存しているという前提をおいています。

それであればできる限り効率的に経営管理や企業成長を実現できた方がよいということととなります。言い換えると経営管理にかかるエネルギーを削減して成長に心血を注ぐということです。

その効率的に経営管理や経営状況や財政状況の説明、企業価値向上を見ることができる指標が「残余利益(超過利潤・超過収益)」という概念となります。

残余利益とは!?当期純利益から株主期待利益を控除した超過利潤・超過収益!!

残余利益(Residual Income)とは、当期純利益から株主の期待収益を差し引いて残る超過利潤・超過収益の事です。

言い換えると株主の期待収益を上回る超過利潤・収益のことで、資本の額に株主の期待収益率を乗じた金額を上回る利益となります。

残余利益は以下の算式で表されます。

残余利益=当期純利益-株主の期待収益

残余利益=当期純利益-資本×期待利益率

この残余利益を用いたインカムアプローチによる企業価値算定法が、残余利益法(Residual Income Model)、別名オールソンモデルとなります。

現在の純資産に将来得られる残余利益の現在価値の総和を足したものが株主価値であるという企業価値算定方法です。

株主価値=純資産+残余利益の現在価値の総和

企業が稼ぐ最終の収益が当期純利益であり、そこから資本にかかる資金提供者の求める期待収益を引いたものが残余利益であり、現在の資本に、将来得られる残余利益の現在価値の総和を足したものが株主価値であるということとなります。

残余利益を使った経営管理と企業価値評価の4つのメリット!

さて、筆者が、中小・ベンチャー企業には、残余利益や残余利益法を使って経営管理や企業価値評価を行うのが向いていると思う理由は、以下の4点となります。

  • 会計数値をそのまま使え、資料作成の手間が省ける
  • すべての利害関係者を包括した指標で全員に説明ができる
  • 一見違いそうな業績向上のための経営管理と企業価値向上の2つの観点を、一つの指標で一貫して説明できる
  • 全ての利害関係者にわかりやすく説明できる

会計数値の活用で効率性アップ!

ひとつめの会計数値を使うメリットは、会社の実体を表す情報の一元化ができ、効率的であることです。

経営管理を行う、経営・財政状態を報告する、会社価値算定をする場合に、別に記録されているものをそれぞれに用意するということは、そこに一つ手間がかかっているということとなり効率が低下します。

また、別に記録されている数値と会計数値が異なる場合は、情報の信頼性における疑義が生じます。

会計数値とは別に必要な情報を入手し加工しなければ、経営管理や株主・債権者への報告や会社価値算定ができないという場合も同様です。

無駄なく効率よく信頼性の高い会計数値を同一のルールで正しく記録し、それを活用することが最も効率的な活動となるからです。

また、残余利益法は、「クリーンサープラス会計(clean surplus accounting)」が成立していることが条件となります。

時価会計が導入されていない中小・ベンチャー企業では、クリーンサープラス会計が成立していることも残余利益法が有用な理由としてあげられます。

残余利益は全ての利害関係者を包括した指標!

ふたつめの利点は、全ての利害関係者を包括していることです。

会社には、社内外の様々の利害関係者が関わっており、それぞれの立場が求める情報や期待するリターンは異なります。それぞれの立場の利害関係者に応じた情報で会話をするためには、話す側に相当な高い知見とスキルが求められます。

その点、残余利益(超過利潤)の概念は、利害関係者の求める情報を一つの概念で説明することができます。

残余利益は当期純利益から株主の期待利益(株主資本×資本コスト)を差し引いたものですが、負債も含めた会社全体の超過利益を表すものに変形すると当期純利益※1から、総資産※2に加重平均資本コストを乗じた値を差し引いたものとなります。

※1当期純利益には、支払い利息等が含まれているため、加算調整の必要はあります。※2実際には使用資産が利用されますが、説明をわかりやすくするためにここでは、総資産で解説します。

残余利益=当期純利益−総資産×加重平均資本コスト

上記の残余利益の変形式には、すべての利害関係者への、全ての説明要素が含まれています。

当期純利益には、従業員や取引先・行政機関等に説明する業績や取引内容等が含まれており、総資産には、あらゆる利害関係者への説明要素である会社の有する資産の実体があり、加重平均資本コストには、金融機関と株主等の資金提供者への利息等のリターンの説明要素があります。

したがって、残余利益を使って経営管理を行い、超過利潤を最大化するためには、当期純利益を向上させるか、総資産を圧縮するか(※総資産に占める余剰資金がある場合は活用して業績を向上させるか)、加重平均資本コストを低下させるかのいずれかを単独で実行するか、複数を同時に実行すれば良いこととなります。

また、その活動結果を全てのステークホルダーに対して残余利益で説明することができます。

同一指標の活用で会社価値評価の説得力が高まる!

3つめは、経営管理と企業価値評価の一貫性についてです。

会社価値算定は、大別するとインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチがあります。

インカムアプローチは将来利益を算定するのに優れており、マーケットアプローチは比較性に優れており、コストアプローチは現在の会社の実体を算定するのに優れています。

会社価値評価においては、その客観性や妥当性を高めるために様々なアプローチを組合わせて評価を実施しますが、会社の譲渡は相対で決まるためどれが絶対ということはありません。

残余利益法は将来性を評価するインカムアプローチの一つとなりますが会社の実態の財政状況も内包しています。

経営管理を残余利益の向上・最大化で行い、そのまま残余利益法で会社価値評価ができるという一貫性は、自社の将来性を論理的に説明する上で、様々な経営管理手法や企業価値評価法を取り入れる多様性を乗り越えて大きなメリットがあると思われます。

残余利益はシンプルでわかりやすい!

最後の利点は、わかりやすさです。

利潤は収入から支出を引いたものですが、残余利益の概念は収入から支出を引くのと同様にシンプルでわかりやすいです。

最終利益(当期純利益)−総資産×加重平均資本コスト

前者は、会社が全ての支払いを済ました後に残った利益で、後者は会社が保有する全ての資産から得られるであろうと資金提供者が期待する利益(※会社側からは支出)、2つの差分が、会社が資金提供者の期待値を支払って残る超過利潤=残余利益となります。

経営者が様々な利害関係者に対して、自社の経営管理を実施する、あるいは会社の財政状態や経営状況、会社価値を説明するときに、全てを包括してわかりやすく説明できるという点は何ものにも勝る得難いものだと思います。

本記事のまとめ

以上、本ブログでは、経営管理における残余利益の活用と会社価値評価における残余利益法の利点について書きました。

自社の経営管理に悩まれたり、迷われた場合には、全てを包括できる残余利益法を検討するのも一考かと思われます。

  • 残余利益は、会社の最終利益から資金提供者が期待するリターンを引いて残る超過利潤である
  • 残余利益は会計数値をそのまま使え効率的である
  • 残余利益には、すべての利害関係者に向けた説明要素が、包括されている
  • 残余利益法で企業価値を評価をするとその一貫性により会社価値評価の説得力が増す
  • 残余利益の概念は単純でわかりやすい

弊社では、残余利益と残余利益法を用いた「企業価値最大化に向けての経営分析」を実施しています。

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2 thoughts on “残余利益による経営管理と企業価値評価が中小企業に向いているわけ!

  1. […] 今回は、会社を高値売却する方法について書きます。こちらの記事は前回の記事「残余利益による経営管理と企業価値評価が中小企業に向いているわけ!」の続編となりますので、そちらも併せてお読みください。 […]

  2. […] こちらの記事は前回の記事「残余利益による経営管理と企業価値評価が中小企業に向いているわけ!」の続編となりますので、そちらも併せてお読みください。 […]

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