残余利益(超過利潤)モデルで会社を磨いて高値で売却する方法!

今回は、残余利益(Residual Income)モデルを用いて企業価値を向上させる方法、また企業価値向上後の会社を高値売却する方法について書きます。

こちらの記事は前回の記事「残余利益による経営管理と企業価値評価が中小企業に向いているわけ!」の続編となりますので、そちらも併せてお読みください。

企業価値を高める、会社を高値で売却する考え方とは!?

結論から言うと、企業価値を向上させる、会社を高値売却するポイントは、買手にとって譲渡・売却企業が魅力的であることです。

また買手にとって魅力的であるということは、買手がその会社や事業、経営資源を欲しいと思うこととなります。

ただし、一概に何が魅力的だ、と定義することは、業界や取引の需給関係等にも左右されるため、かなりハードルが高くなります。

しかし、ファイナンスの観点からは、買い手企業の利益拡大に寄与できること、その取得価格が、将来獲得できる利益額より低いことは、業界や取引需給に関係なく、ほとんどの買手企業に当てはまる譲受条件となります。

買手は、引き続き、収益獲得の実現可能性、既存の経営資源との重複、資産・債権・債務の信頼性など様々な角度から買収を検討していくこととなります。

会社をマーケティングの視点で「会社=商品」と捉えると、一見難しく感じる会社譲渡・バイアウトもわかりやすくなります。

魅力的な商品は購入されるのと同様に魅力的な会社・事業は購入されます。

したがって、売手の立場からは、譲受先の期待を実現できるように会社を磨く(企業価値を高める)買い手の将来に渡って得られる利益貢献額を明示することが高値売却のポイントとなります。

会社を磨く(企業価値を高める)

将来得られる利益貢献額を明示する

企業価値を易しく説明する概念「超過利潤(超過収益)」!

それでは、会社を磨くとはどういうことでしょうか!?

会社を磨くということは、企業価値を高めるということで、「超過利潤(超過収益)」という概念が、わかりやすくそれを説明しています。

超過利潤(超過収益)とは、企業が獲得する収益から使用資本にかかる費用を差引いて残る利益のことで、「残余利益(Residual Income)」と言われます。

この残余利益が大きい(超過収益力が高い)、かつ持続的・継続的に獲得できる会社の企業価値は高くなる、即ち、高値での売却可能性が高くなるということとなります。

超過利潤(超過収益)=残余利益=収益-使用資本にかかる費用

超過利潤(超過収益)概念を活用した会社価値創造モデルで代表的なものには、「EVA(Economic Value Added、スターンスチュワート社)」があり、日本でも花王やソニー、旭化成、キリンビールなどが経営指標として取り入れています。

また、「残余利益モデル(Residual Income Model)」、別名オールソンモデル、(Ohlson Model)も同様に、超過利潤概念を活用した企業価値の算定モデルとなります。

会社を磨く!?超過利潤=残余利益の高め方とは!?

それでは、残余利益(超過利潤)を向上させるにはどうすればよいでしょうか!?

残余利益(超過利潤)は、「会社が獲得した利益から使用資本にかかる費用(資本コスト)を控除して残る利益」で計算されます。

残余利益(超過利潤)=利益-使用資本×資本コスト

残余利益(超過利潤)=使用資本×(資本利益率-資本コスト)・・・上記変形式

残余利益の算式には3つの変数があり、それが、利益(資本利益率)使用資本資本コストとなります。

したがって、残余利益(超過利潤)を向上させるには、3つの変数を管理することが重要となります。

そして、利益(資本利益率)、使用資本、資本コストの3つの変数の管理ポイントが「事業収益性の向上」、「使用資本(資産)効率性の向上」、「資本コストの低下」の3点となります。

以下それぞれの管理ポイントを解説していきます。

残余利益向上のポイントは

(1)事業の収益性を向上させる

(2)使用資本=資産の効率性を向上させる

(3)資本コストを下げる。

(1)事業収益性を向上させるには、資本利益率>資本コストと残余利益成長率>使用資本増加率を達成する!

事業の収益性を向上させる上では、売上高原価率の低減や費用の削減により利益を確保することは当然に求められます。

そして利益を使用資本で除した資本利益率が、資本コストを上回ることが、必須となります。

資本利益率が資本コストを下回る状態(超過利潤がマイナスの状態)は、財務的観点からは現在の会社価値を毀損していることとなります。

したがって、利益目標を設定する場合は、資本コストを上回る目標資本利益率や、使用資本に資本コストを乗じた金額を上回る利益目標額を設定する必要があります。

資本収益性>資本コスト

さらに会社はゴーインコンサーンを前提としているため、持続的に利益を資本コスト以上に成長させることが求められます。

理由は、利益が留保されていくことで次年度には使用資本が増加するからです。

利益額が一定で使用資本が増加するという状態は、会社の価値としては使用資本の増加額(現在の実体価値)以上には変化をしません。場合によっては、超過利潤がマイナスに陥るケースも想定されます。

結論、既存事業のさらなる拡大や新しいことへのチャレンジを実行し、資本コストを上回る収益性が確保できる事業を展開していくことが重要となります。

残余利益(超過利潤)の成長率>使用資本の増加率

(2)使用資本(資産)の効率性向上のポイントは、資産の特性に応じた適切な管理を実施する!

会社には、大きく3つの資産があります。

一つは事業(本業)用の資産で、これはさらに収益を産む資産と収益を産まない資産に別れます。二番目の資産は非事業用の資産となります。そして最後が余剰資金です。

資産の効率性を向上させるには、上述した①事業用の収益資産、②事業用の非収益資産、③非事業用資産、④余剰資金の4つの資産毎に異なる管理を実施することが重要となります。

特に①・②の事業用資産は総資産に占める割合が大きいので、その資産が収益を生むか否かにかかわらずしっかり管理することが残余利益(超過利潤)の向上においても有効となります。

以降、それぞれの資産毎の管理ポイントについて解説していきます。

①事業用資産の収益性を高める

②収益を産まない事業用資産の増加を防ぐ

③本業外の資産はできる限り持たない

④余剰資金は、活用して収益を確保するか、株主に還元する

①事業(本業)用収益資産の収益性を高める

事業用資産のうち収益を産む資産(事業用収益資産)には、商品・製品等の棚卸資産や店舗等の建物や備品、機械等の設備やソフトウェア・知的財産等の無形固定資産が該当します。

これらの資産は、回転率等の効率性に注視されがちですが、収益性を指標化して目標管理をする必要があります。

理由は、保有する資産の効率性や収益性の問題だけでなく、損益計算書の利益にも影響を及ぼすからです。

棚卸資産や設備・備品等の事業用資産は、期首在庫・当期仕入・期末在庫や、減価償却費等で売上原価や販売・一般管理費を構成しています。

したがって、「事業用収益資産」の管理は、資産の効率性のみならず損益の改善にも寄与することとなります。

②事業(本業)用非収益資産の増加を防ぐ

事業用資産のうち収益を産まない資産(事業用非収益資産)は、運転資金や売上債権、その他の資産が該当します。

これらの資産の増加はキャッシュフローを悪化させるだけでなく使用資本の増加を以って資本コストを増加させます。

結果、残余利益(超過利潤)の減少要因となります。

売上債権の回収の早期化など、事業の成長予測に応じた適切な資産管理、即ち、事業成長率以下の資産増加率となるように管理することが残余利益(超過利潤)増加のポイントとなります。

③本業外の資産(非事業用資産)はできる限り持たない

二番目の非事業用資産は売買目的の有価証券や投資用不動産や有価証券が該当します。

これらの資産は、収益を産むことが前提となりますが、その資本収益率が資本コストを上回っているか否かと、換金の容易性には留意する必要があります。

ただし原則、非事業用資産は、資金を有する人であれば誰でも取得・保有できる資産である場合が多く、資金提供者や事業譲受先(買い手)にとって魅力的なものであることは稀有です。

また、その資産を本業ではない会社が資金提供者に代わって取得・運用している状態は、その取得・処分の流動性を喪失している点でも良好ではありません。場合によっては、資金提供者の投資機会の損失を招くことになりかねません。

非事業用資産においては、時価評価を実行し、早めに処分をしておくことが肝要となります。

④余剰資金は活用して収益を確保するか、株主還元する

最後の余剰資金ですが、既存事業の成長加速やシナジーある事業分野への事業展開に積極的に活用するか、株主への還元を図ることをおすすめしています。

前者は、成功すれば利益の拡大に寄与し資本収益性を向上させ、失敗しても余剰資金の喪失分だけ現状の実体価値が減少するにとどまります。

また、自己株式の取得や配当による株主還元は、株主資本減少による資本コストの削減効果があります。

結果、残余利益(超過利潤)の向上に寄与します。

(3)資本コストを下げるには、自社の最適資本構成を考案する!

資本コストは、「負債割合×負債資本×(1-実効税率)+株主資本割合×株主資本コスト」で算出されます。

上記算式からも変数が、負債資本と株主資本の割合、負債コスト、株主資本コストであることがわかります。

この3つの変数のうち最も重要なのが負債資本と株主資本の割合となります。

理由は、負債コスト・株主資本コストは、資金提供・収受者の情報の非対称性が小さく費用の削減余地があまりないからです。

では、負債割合と株主資本の割合は、どう決定していけばよいかということとなりますが、こちらの汎用的な最適解はありません。

一般的には負債コストより株主資本コストが高く、負債コスト割合を上昇させると加重平均資本コストは下がるように見受けられますが、負債割合の上昇は倒産リスクを増大させるため株主資本コストの上昇を招きます。

また安全性を考慮して株主資本割合を大きくすると、超過利潤を確保するための目標利益率が上昇します。

結論、事業構造や自社が属する業界等の株主資本コストの期待値、負債割合の上昇におけるリスク等を鑑みて自社オリジナルの最適資本構成を考案していくことが必要であると言えます。

将来得られる利益貢献額を明示する。

これまで「会社を磨く」というテーマについて書いてきました。本節では「将来得られる利益貢献額を明示する」について書いていきます。

結論から言うと、将来得られる利益貢献額とは残余利益(超過収益)の総和で表すことができます。

将来得られる利益貢献額=残余利益の総和

残余利益は、当期の利潤から、使用資本に資金提供者が求める期待リターン率を乗じた値を控除することで得られる「超過利潤(超過収益)」でしたね。

会社の活動が続いていくとすると、翌年にも同様の計算式から得られる超過収益があり、それがその翌年にも続いていくこととなります。

もちろん、将来の超過利潤(超過収益)は、会社の経営環境(市場・競合など)や技術革新・代替商品などにも左右されます。

それらを加味して、将来に渡って得られるであろう残余利益の総和が、「将来得られる利益貢献額」となります。

では、明示するということはどういうことでしょうか?

これは、今後の5年・10年の利益計画や財政(貸借対照表)計画を用いることで表すことができます。

即ち、将来得られる利益貢献額を明示するということは、利益計画・財政計画をもって残余利益の推移を表示すると置き換えられます。

会社・事業の譲受人は、残余利益額の総和と取得価額を比較して買収・取得の判断をするということとなります。

ただし将来得られる利益と現時点での取得価格を比較するためには、将来得られる利益を現在の価値に割り引く必要があります。また、取得価額には本取引における実費やM&A仲介手数料などの費用を含まれる点にも留意が必要です。

将来得られる利益貢献額=残余利益の総和≧譲渡価格

高値売却には、ストーリーが大事!譲渡価格の妥当性とは!?

M&Aにおける譲渡価格の妥当性とは、一般的に経済的に妥当である譲渡価格の算出方法や一般的な譲渡価格の水準にあるわけではありません。

もちろん、これらの要素が重要でないとは言いませんが、それ以上に大事なことは、その譲渡・売却に論理的なストーリーがあることだと思います。

事業譲渡や会社の売却は、それを業としていない場合、一生に一度にあるか否かの、経営者自身がエネルギーを注いだ「会社=商品」として譲渡・売却する数少ない機会となります。

その数少ない機会であるからこそ、企業価値を高めるべく会社を磨いてきた事実、磨いた結果の超過利潤(超過収益)から会社を算定した場合の企業価値、買手の取得後の利益成長への貢献額を明示するという3つのポイントが論理立てられたストーリーとなっていることが非常に重要となるのです。

企業価値を高めるべく超過利潤(超過収益)モデルの経営管理を実践した事実

超過利潤(残余利益)モデルによる一貫した企業価値評価

買手の利益貢献額を明示する

上記のストーリーがあれば後は、様々な観点から譲渡候補先を選定し、組み立てられたストーリーをプレゼンテーションし、そのストーリーに納得・同意する相手と契約することとなります。

極論、ストーリーに基づく価格水準での交渉に応じない会社には譲渡はしないぐらいの気構えで実施すると言っても過言ではないと言えます。

本記事のまとめ

以上、本ブログでは、残余利益(超過利潤)モデルで会社を磨いて高値で売却する方法について書きました。

かなり、駆け足で書いたために説明の至らない点は多々あるかと思われますが、本ブログのポイントをまとめると以下となります。

  • 会社を磨く(企業価値を高める)、買い手の利益貢献額を明示することが重要である。
  • 超過利潤=残余利益(企業が獲得する収益から使用資本にかかる費用を差引いて残る利益)が、企業価値を説明する。
  • 超過利潤=残余利益を高める、持続的に成長させることが企業価値を高める。
  • 超過利潤=残余利益を高めるには、事業収益性を向上させる、使用資本(資産)効率を向上させる、資本コストを下げる、の3つの管理を実施する。
  • 事業収益性の向上のためには資本コストを上回る利益目標を設定すること、使用資本の増加を上回る超過利潤=残余利益の成長を実現することが重要である。
  • 使用資本(資産)効率を向上させるには、①事業用資産の収益性を高める、②収益を産まない資産の増加を防ぐ③本業外の資産はできる限り持たない、④余剰資金は、活用して収益を確保するか、株主還元する。
  • 資本コストを下げるには、自社オリジナルの最適資本構成を考案する必要がある。
  • 将来得られる利益貢献額=残余利益の総和≧譲渡価格
  • 会社の高値売却には、ストーリーが大事。①企業価値を高めるべく会社を磨いてきた事実、②磨いた結果の超過利潤から会社を算定した場合の企業価値、③買手の取得後の利益成長への貢献額を明示し、買手を説得する。

弊社では、残余利益(超過利潤)と残余利益法を用いた「企業価値最大化に向けての経営分析」や、残余利益(超過利潤)モデルに基づく経営コンサルタント業務を実施しています。

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