中小建設業企業のM&A成約事例の実際を解説!

令和3年10月に建設企業の株式譲渡によるM&Aが成約となりました。本件M&Aは、M&Aマッチングプラットフォーム上で完結した中小企業間のM&A成約事例となります。

「M&A」というキーワードの知名度も上がり、プレイヤーも増加していると思われますが、その実態は、十分に浸透しているとは思えません。そこで、本ブログが、中小企業間M&Aの実態の理解促進と成約に至る課題解決の一助になることを願い、成約事例を紹介します。

なお、本ブログは、FA(フィナンシャルアドバイザリー。以下「FA」という)の立場から、業務の中で特に重要と思われるポイントの紹介と実際の対応について解説しています。

本ブログの目次

(対象案件等概要)

 塗装技術を活用した浴室再生リフォーム企業の株式全部譲渡!!

(FA業務の受任)

 スモールM&Aは超売手市場!!売手FA業務の受任は、マーケティング視点で臨む!!

   FA業務受任のポイント

   FA業務受任の実際

(企画概要書作成)

 企画概要書には、譲渡価格の算出根拠、投資対効果、証憑・参照資料の一覧を記載!!

   企画概要書(IM)作成のポイント

   企画概要書(IM)作成の実際

(公募)

 公募時は、譲受候補先のイメージを訴求!!面談のTPO(時・場所・場合)を熟考する

   公募のポイント

   公募の実際

(最終契約)

 基準日以降譲渡日までの資産移動や非経常取引は厳禁!!

   最終契約のポイント

   最終契約の実際

 本ブログのまとめ

塗装技術を活用した浴室再生リフォーム企業の株式全部譲渡!!

では、はじめに本ブログにて紹介するM&A事例の案件概要を紹介します。

本件は、株式全部譲渡価格1,500万円(別途不動産等の現物譲渡あり)非専任仲介(テール条項無し)のスモールM&A事例となります。

対象案件概要

社名株式会社バスビューティ
事業内容浴室再リフォーム等
売上高7,500万円〜1億円
事業粗利3,000万円~5000万円
営業利益500万円〜1,000万円
EBITDA500万円~1,000万円
総資産1,000万円~2,500万円
純資産500万円~1,000万円
金融負債なし
対象事業は、塗装技術を活用した浴室の再生リフォームに特徴があり、事業粗利は約40~50%ある。品質の標準化・施工能力の拡大が図れるとニッチ領域における事業拡大が可能と想定される。

譲受企業概要

社名株式会社rock
業務内容中古農機具の仕入・販売
売上高非公開
当期純利益非公開
総資産非公開
純資産非公開
買収資金全額借入
譲受企業は、関西、中部、東北地区に営業拠点があり法人の営業部隊を有し、webマーケティングのノウハウを有している。

M&A関連情報

取引形態普通株式 100%譲渡
仲介・FA仲介 非専任(テール条項無し)
開始日令和3年5月13日
成約日令和3年10月26日
利用PF※トランビ、バトンズ、ビズリーチサクシード 
総問合せ数12件
※PF=プラットフォーム

スモールM&Aは超売手市場!!売手FA業務の受任は、マーケティング視点で臨む!!

それでは本件事例をM&AのFA業務の受任からクロージングまで、一般的な業務の流れに沿って、解説していきます。

はじめのステップは売り案件(譲渡案件)の発掘となります。

ここがpoint!

・M&Aマーケットは超売手市場!他のFAとの差別化を考案する

・具体的な譲受候補をもって事業の改善・発展をイメージ

・顧客の利益を最大に!ただし良いことだけを言わない

・譲渡成立の期待値(可能性)を高める

売手FA受任のポイント

案件発掘には、DM・メール・電話などの対象案件への直接のアプローチや、団体や取引先等からの紹介、セミナーの開催やHPへの問い合わせ等、様々な方法があります。いずれの方法を選択するとしても譲渡案件へのアプローチに際してはM&A市場における利害・競合関係を考慮する必要があります。

M&Aマッチングプラットフォーム上での売手(譲渡側)と買手(譲受側)の超売手市場で、その需給バランスは、1件当たりの平均申込数:14.6件(※トランビ、令和3年10月28日現在)となっています。

その市場環境を鑑みると、売手に対して興味を持ってもらえる・メリットがある、他と差別化されているサービスを考案することは必須ですし、アプローチしても競合に埋没して次のステップに進まないことも念頭に置く必要があるかもしれません。

売手FA受任の実際

さて、本件は、M&Aマッチングプラットフォームを通じて譲渡案件にてアプローチしました。また、売主(譲渡側)に対しては、売手FAの受任を第一義としてアプローチしたわけではなく、顧問先の総合リフォーム企業での譲受検討を買手(譲受側)FAの立場でアプローチしています。※最終的には顧問先ではなく公募先への譲渡となっています。

アプローチ時には実名開示依頼と併せて直ぐにwebオンライン面談を申し入れました。中小企業で財務諸表等を開示いただく場合、時間を要することも多くあります。本件は事業に特徴があったので面談することを優先させたのがその理由となります。

webオンライン面談時には、M&Aにかかわる市況、概要、流れを説明するだけではなく、相手側の情報を伺いながら、どうすると対象案件の事業が発展するのか・収益があがるのかを中心に会話をしました。また、会社や事業の概況のヒアリングでは、FAの視点から、財務面の良い点だけでなく、悪い点、場合によっては苦言を呈する内容も正直にお話しし、できる限り客観的な会社・事業価値の評価や考え方を伝えています。その他には、顧問先での譲受検討方針、方法の説明は当然に、譲渡成功の確率を高めるために顧問先での買収(譲受)が不調に終わった場合の保険とより良い譲受候補先とのマッチングを目的に幅広く譲受先を募集すること、募集時の大筋の訴求の方向性なども交えて話をしています。

結果、2時間ぐらいの面談終了時には、非専任の売手FA業務の受任に至ったという次第となります。

受任は敢えて専任ではなく「非専任・テール条項無し」を提案しました。理由は、譲渡達成を目的とした場合、専任条項やテール条項により成約の障壁が上がることを避けるためです。中小企業の多くは、財務・会計及びコーポレートガバナンスの面において相対的に客観的ではなく主観的な場合が多いと思われます。その状況を鑑みると交渉候補先の選択肢を狭める方策は得策ではないと筆者は考えます。

本件では、売主からは、M&Aの専門家に依頼することによる譲渡成立の期待値が高まること、譲渡に至るまでの責任感や担保性が伝わった、結果でのFA業務の委任を依頼とのお声をいただきました。

企画概要書には、譲渡価格の算出根拠、投資対効果、証憑・参照資料の一覧を記載!!

次に、売手FA受任後の作業としては企画概要書(Information Memorandum以下「IM」という)の作成となります。

ここがpoint!

・事業セグメント別の損益情報と資産・負債の整理・修正では、修正に伴う損失・費用を修正後BS・PLに反映させる

・客観的投資参考情報(株式価値・投資対効果・シナジー案・リスク)の提示で買手側の検討・判断をサポート

・企画概要書作成の根拠となる証憑及び参照情報の一覧は必須掲示事項。文書の信頼性を高める

はじめに企画概要書(IM)に必要な資料を入手します。主な企画概要書(IM)に必要な資料は以下となります。

企画概要書(IM)作成に必要な主な資料

  • 会社HP、会社案内、事業案内
  • 登記簿謄本、会社定款、株主名簿、
  • 青色申告書3期分、
  • 契約書(取引基本契約書・金銭消費貸借契約書・賃貸借契約書・リース契約書・労働契約等)
  • 組織図、各種規定(就業規則・賃金規定等)

上記の資料を入手する際に気をつける点は、上記資料の一部が存在していないことを前提とすることです。したがって、企画概要書(IM)作成において必要がある場合は、不存在資料の作成も行う場合もあるかもしれません。

資料入手に並行して以下に記載する構成で企画概要書(IM)を作成していきます。

企画概要書(IM)の主な構成

  • 対象案件の概要(会社概要、事業内容、株主名簿、組織図、従業員名簿等)
  • 財政状況(BS)・損益情報(事業セグメント別のPL)及び譲受後の修正BS・PL
  • 資産・負債の内訳・明細
  • 希望譲渡条件概要(価格・取引形態・付帯条件・スケジュール)
  • 客観的投資参考情報(株式価値参考資料※バリエーション参考情報・投資対効果参考情報・事業シナジー案・リスク参考情報)
  • 企画概要書作成時の証憑・参照情報一覧

企画概要書(IM)作成のポイント

企画概要書(IM)はとにかく情報を充実させることが重要です。企画概要書(IM)の情報がより充実していることは、譲受候補先の詳細理解・検討を促し、意思決定判断の有益な情報を提供することとなります。また、その後の譲受候補先(買主)とのやりとりも効率的となります。

筆者が企画概要書(IM)の作成において、情報充実に加えて特に注視している点は、上記の主な構成のうちの「財政状況・事業セグメントごとの損益情報(修正貸借・損益含む)」、「客観的投資参考情報」、「証憑・参照情報一覧」の3点です。

「財政状況・事業セグメント別損益情報(修正貸借・損益含む)」は、譲受候補先にとって最も関心の高い項目と思われます。財政状況は、対象案件のある時点における資産や負債の状態を表すものであり、会社の財産がどのようになっているかを知ることができます。また損益構造がどのようになっているかを事業セグメント別に知ることで、事業の期待利益、改善見通し、不採算事業の整理等を考案できる情報となるからです。

損益・財政状況の修正において気をつけるべき点は、修正することに伴い発生する損失その費用等修正後の貸借対照表や損益計算書に反映する必要があることです。

例えば資産の減損をすることで損益が改善されるのであれば、その価値の減少に伴い発生する損失や減損処理に伴う費用は、時価純資産価値の減少を招くと同時に将来の減価償却費の減少に伴う利益増加の期待値を発生させます。またオーナー兼代表取締役が譲渡に伴い辞任する場合は、その分の役員報酬と法定福利費は減少しますが、新たに管理者が必要な場合は、その人件費(法定福利含む)が別途発生します。

これらの情報が正しく修正BS・PLに反映されていないと、買主は取得費用に加えて追加の損失・費用を発生することとなり、結果、高値掴みとなってしまいます。譲渡後のトラブルの要因ともなりかねないので修正後BS・PLを掲示する場合は特に気をつける必要があります。

「客観的投資参考情報」は、投資にかかわる参考情報を示すものであり、譲渡対価(株式価値)の参考情報投資対効果の参考情報事業シナジー案リスク情報などから構成されます。本情報の客観性が高いほど売主・買主双方にとって譲渡対価の信憑性が高まります。ここがFAの腕の見せ所ともいえる意見書といっても過言ではないかもしれません。

「客観的投資参考情報」の譲渡対価(株式価値)参考資料は、希望譲渡価格に対して、株式価値がどのような根拠や考え方に基づき算定されているかの客観的な参考情報となります。評価方法には、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチなどの手法があり、譲渡対価の妥当性や根拠を検討する上において非常に有益な情報となります。また売手・買手双方の希望価格の乖離を埋める上においても重要な役割を果たすと考えられます。

「客観的投資参考情報」の投資対効果参考情報は、買手が支払う取得対価から生まれる利益取得対価の回収期間を財務的に表す情報となります。投資額(取得対価)に対する期待利益・利回り、投下費用の回収期間を提示します。また利回りや回収期間が取得対価の資金調達時の資本構成によってどのように変化するかなどを示す情報となります。買手にとってM&A実行における財務インパクトを考案する上での有益な情報となります。

「客観的投資参考情報」のシナジー案は、対象案件の譲渡後の事業展開の参考情報となります。リスク情報には、チェンジオブコントロール条項訴訟の有無風評被害その他の対象案件譲受後の懸念事項などが含まれます。

「証憑・参照情報一覧」は、企画概要書(IM)の真実性や客観性を示す上において非常に重要な資料となります。提供された企画概要書(IM)にある情報が何に基づいて記載・表記されているのかは文書の信頼性を高める上において重要な情報であり、企業調査における提出可能資料などの参考情報ともなるからです。

企画概要書(IM)作成の実際

それでは、上記を踏まえて、本件企画概要書(IM)の実際はどうであったかを解説します。

本件では、青色申告書3期分、契約書、売主インタビューを通じて譲渡対象事業と非譲渡対象資産の分離を行い、非譲渡資産を減価させるのと同時に、損益計算書の費用も減じました。※本件では、非譲渡資産の減価に際しては、特に費用の発生が見込まれなかったため追加支出の計上はしておりません。また、本件譲渡をもって退任予定の人件費(法定福利費含む)の削減と新任の管理費用の追加の損益修正を実施しました。その他に、親族含む売主において、対象案件企業をして、費用支出が見受けられたためその費用分の損益修正を実施しました。

株式価値参考情報では、時価純資産+営業権法(EBITDAマルチプル法)を用いて株価参考情報を算出しました。時価純資産は前述したポイントを踏まえ、譲渡対象の資産・負債に修正した貸借対照表に基づき算出し、営業権法(EBITDAマルチプル法)は、前述したポイントを踏まえ修正・算出したEBITDAに、東京証券取引所の一部・二部上場企業の直近6か月のPERの平均指数に実効税率と中小企業ディスカウントを勘案して算出した倍率(EBITDAマルチプル)3.6~4.6倍を乗じています。

投資対効果参考情報では、投下資本(取得価格)の資本構成(自己資本:金融負債割合)ごとの超過利潤・投資利回り・回収期間・IRRを算出して掲示しました。※超過利潤・投資回収期間・IRRはすべて期待値となり、実際の利益を保証するものではありません。

事業のシナジー案については譲受後の事業展開案として筆者なりにどのように事業展開を進めるかを考案し掲示しました。

リスク面は、取引基本契約書内にチェンジオブコントロール条項なども見当たらず影響は軽微と判断したため企画概要書(IM)には反映しませんでした。ただし、ここは後述する見落とし(※最終契約で記載)があったため、最終契約書の表明保証や譲渡後の義務、付帯合意事項として別紙目録が3ページ分に渡ることとなりました。

企画概要書(IM)末尾には、資料作成の情報源の証憑・参考情報の一覧、貸借対照表・損益計算書の修正情報の明細を添付しました。

以上のポイントで企画概要書(IM)を作成しましたが、本企画概要書(IM)は売手・買手の双方から完成度の高さと、客観的投資参考情報につき高い評価をいただきました。

公募時は、譲受候補先のイメージを訴求!!面談のTPO(時・場所・場合)を熟考する

企画概要書(IM)ができたら(あるいは作成途中の場合もあり)、M&Aプラットフォーム上で譲受候補先を募集していくこととなります。

ここがpoint!

・譲受候補先イメージを訴求

・興味関心の理由、資金背景、事業シナジー・展開案を聞く

・面談はTPOを熟慮して設定する

以下に譲受候補先募集の流れを記載します。引続き、重要なポイントと実際について解説していきます。

公募(譲受候補先募集)の流れ

  • 公募用ノンネームシートの作成
  • 譲受候補を募集・受付
  • 機械概要書(IM)開示
  • 質疑応答
  • 面談
  • 意向表明書受付
  • トップ面談
  • 企業調査
  • 各種交渉
  • 基本合意

公募のポイント

ノンネームシート作成のポイントは企画概要書(IM)の内容に沿った一貫性を持つこと、譲受候補先をイメージして相手の立場に立って知りたい内容をできる限り具体的に記載することとなります。

ノンネームシートと企画概要書(IM)に一貫性がないと、問い合わせはあってもその後の検討ステップに進まない事態を招くこととなりかねません。また、譲受候補先のイメージがないと超売手市場といえども適切な譲受候補先の目に留まらず検討機会を逸することとなりかねません。できる限りの具体的な情報を掲載することに加えて留意すべきポイントとなります。

M&A取引は相対取引なので相手があって初めて成立するものです。マッチングプラットフォームの場合は不特定の相手を特定していくプロセスの実行となります。はじめから相手先イメージやその相手の目線に立った情報提供を行うことが、最終的に最も効率的な活動になると筆者は考えます。

質疑応答に際しては、予め想定質問集を作成し、十分な資料入手や売手のヒアリングを実施しておくことが肝要です。質問に対する回答が遅れることが譲受候補先のM&Aに対する意欲の低下を招くこととなりかねないことは認識しておく必要があります。

面談において気を付ける点は、事業や会社にかかわる内容と譲渡にかかわる条件等の内容を混同して話さないことです。具体的には、事業にかかわる内容はトップ面談とし、譲渡にかかわる内容はFA間やFAと譲受候補先とするなど同一のタイミングで実施しないことです。期待と現実が同時に発生するという面談は、二つの筋肉を同時に動かすようなもので、破断要因となりかねないので注意が必要となります。

公募の実際

それでは、本件の場合の公募プロセスについて紹介および解説していきます。

本件のノンネームシートはできる限り具体的に項目を入力するだけでなく、企画概要書のシナジーで考案した内容に基づき譲受候補先のイメージを掲載しました。また問合せに際しては、相手先の事業実績、当案件に興味を持った理由、資金背景、譲受後の事業展開及びシナジーにつき予め記載いただくことを要望しています。

公募期間は、7月初旬からの約1か月で、期間中に12件の問い合わせをいただきました。なお、1か月間というのは予め企画概要書(IM)にも記載していた意向表明書締め日のスケジュールに沿ったものとなります。問い合わせいただいた企業の多くは、公募概要に記載した譲受候補先イメージと合致しており、意向表明書の締め日までの1か月間にて、オンライン面談や質疑応答を通じて情報交換を行いました。

面談による情報交換においては、譲受後に事業発展をさせることができるか否かを主眼に置いて最適な相手先を検討させていただきました。また、質疑応答に関しても予め想定して売手に資料提供をお願いしていたため質問への回答に特に時間を要することなくスムーズに進行しました。

以上をもって、意向表明書の提出があった中から最適な譲受候補先と想定される企業を選定し、独占交渉権を1か月間付与する運びとなっています。なお、本件では、意向表明書の提出の前にトップ面談は行っておりません。譲受候補先様からは会社価値評価について忌憚なく話ができるので、その方が良いとのお声を頂きました。

独占交渉権の付与後は、トップ面談、企業調査、金額等条件交渉を経て、基本合意の締結に至っています。

トップ面談は、対象案件の会社で実施し、その時に倉庫内の棚卸資産の保管状態の確認も併せて実施しました。企業調査は、各種契約書や直近の試算表や収入の状況資料の確認に加え、実際の施工現場の視察を実施しました。これらにて企画概要書(IM)や提供された資料の真実性・信憑性を確認したということとなります。金額等の条件交渉は、対象案件の資産の評価に基づき修正純資産価値相当額の調整によって実施し、最終売主と買主の書面による確認をもって双方了承してからの基本合意の締結となりました。

基準日以降譲渡日までの資産移動や非経常取引は厳禁!!

基本合意締結以降は、追加の企業調査等がなければ、最終契約ということとなります。

ここがpoint!

・開示情報の虚偽や情報開示漏れは絶対に防ぐ

・譲渡日までの経営管理は細心の注意を払うこと

・表明保証、譲渡後の義務、付帯合意まで予め意識してM&A取引を進めること

最終契約のポイント

最終契約で留意すべき点は、最終契約書に記載される表明保証条項なります。

表明保証条項では、売主・買主の双方に譲渡される対象の責任行為を実行できる主体者であること、開示した情報の真実性双方の善管注意義務などを定めます。

表明保証で特に注意すべき点は、オーナー兼代表取締役が売主の場合の情報開示の真実性と善管注意義務と思われます。具体的には、開示した情報に虚偽がないこと隠している情報がないこと法令を遵守しており係争がないこと、重要な資産の取得・売却を基準日以降していないこと、従業員の解雇や新規雇用をしていないこと、設備投資や非経常的取引をしていないこと、債務不履行をしていないこと、などが売主には求められます。

これらは、中小企業の場合、オーナー兼代表取締役の立場となると大きな権限をもって実施されている項目となります。また、上記の点は人(経営者)によって大きく考え方の違いが見受けられるものでもあります。しかし、ここに違反すると契約の解約・解除や損害賠償の発生となるため、最終契約時には特に気をつける点となります。もっと言うと中小企業同士のM&Aの場合は、最終契約前において留意すべきポイントかもしれません。

また、表明保証は、譲渡に係る過去から現在を規定するものですが、最終契約書には譲渡後の義務や付帯合意事項も定められます。譲渡後の義務付帯合意事項は、譲渡日以降の近未来にかかわるものですが、それらの違反もまた契約の解約・解除や損害賠償の対象となりますので併せて留意すべき点となります。

最終契約の実際

それでは、本件の最終契約について解説していきます。

本件の追加調査では、従業員との面談をもって、譲渡後の従業員の退職を招くリスクの発生がないかの確認を実施し、給与の未払い債務の不存在を支払い履歴の確認をもって実施した程度でしたが、本件における表明保証においては、別事業(商品の仕入・販売事業)にかかわる資金繰りにて売主と対象案件企業との間にて大きな貸借取引があったことが課題となりました。

具体的には、別事業における収入は売主個人が受取り、仕入れにかかわる費用は対象会社の与信と立替にて実施し、後日、売主が精算するという取引が存在していました。対象会社をして、別事業の売上伸長に伴う運転資金の増加が対象案件企業の資金繰りに大きな影響を与えるものとなり、仕入れにかかわる費用の未収債権とオーナーからの短期資金の貸付による未払い債務が発生する状況となっていたということです。これらは、決算時には精算されていたため、決算書からは想定できなかったのですが、期中の貸借取引は数百万円(譲渡対価の20%相当額)に及んでおりました。建設業の受注には季節変動があるため、閑散期には大きく資金繰りに影響を与えるものとなっていました。

この影響を無視して最終契約となっていたら、後日、契約解約・解除や損害賠償の発生を招いたかもしれません。

最終的には、売主に対して表明保証の説明をさせていただき、基準日から譲渡日に至るまでに発生している売主と対象案件企業との貸借取引は、譲渡日に有する現預金と譲渡日までに発生している債権債務を相殺して残る現預金を上限として清算し、なお、未払い債務が超過して残る場合は、それを失効させる旨を了承いただき、最終契約の表明保証条項に入れました。また、売主の譲渡後の義務として、譲渡日以降に非譲渡対象事業の債権・債務が発生した場合、売主の責任と費用をもって処理し、対象会社に費用の負担を発生させない、ことも記載しております。

その他、付帯合意事項には、所有と経営の分離ができていないために発生している個人の私的利用にかかわる費用で、会社をして支払っているものについても、売主の責任と費用をもって処理し対象会社をして費用負担をさせないことも最終契約に入れました。※これらは企画概要書作成時には把握済みであったため損益修正の対象としています。

結果、上記の目録や明細が、別紙として3ページに渡って記載されることとなりました。

本件は無事に最終契約に至りましたが、期中に別事業が与える資金繰りに起因する売主と会社間の貸借取引は、本来基本合意前に把握し、調整すべき事項であったのではないかとFAとしても反省している次第です。

本記事のまとめ

以上、本ブログでは、建設企業のスモールM&Aの成約事例について書きました。

かなり、駆け足で書いたために説明の至らない点は多々あるかと思われますが、本ブログのポイントを再度まとめると以下となります。

売手FA受任のポイント

  • M&Aマーケットは超売手市場!他のFAとの差別化を考案する
  • 具体的な譲受候補をもって事業の改善・発展をイメージ
  • 顧客の利益を最大に!ただし良いことだけを言わない
  • 譲渡成立の期待値(可能性)を高める

企画概要書(IM)作成のポイント

  • 事業セグメント別の損益情報と資産・負債の整理・修正では、修正に伴う損失・費用を修正後BS・PLに反映させる
  • 客観的投資参考情報(株式価値・投資対効果・シナジー案・リスク)の提示で買手側の検討・判断をサポート
  • 企画概要書作成の根拠となる証憑及び参照情報の一覧は必須掲示事項。文書の信頼性を高める

公募のポイント

  • 譲受候補先イメージを訴求
  • 興味関心の理由、資金背景、事業シナジー・展開案を聞く
  • 面談はTPOを熟慮して設定する

最終契約のポイント

  • 開示情報の虚偽や情報開示漏れは絶対に防ぐ
  • 譲渡日までの経営管理は細心の注意を払うこと
  • 表明保証、譲渡後の義務、付帯合意まで予め意識してM&A取引を進めるこ

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